[2010年9月8日]

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ω-3不飽和脂肪酸の抗炎症作用とインスリン抵抗性の改善機序を解明

骨髄由来のG蛋白質共役受容体GPR120が作用に深く関与

 ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)に代表されるω-3不飽和脂肪酸には抗炎症作用があることが知られていたが,これまでそのメカニズムは不明であった。今回,Cellに発表された論文(2010; 142: 687-698)によって,ω-3不飽和脂肪酸は,G蛋白質共役受容体の1つであるGPR120を介してマクロファージ誘導性の炎症反応を抑え,さらにこの炎症反応が引き起こすとされるインスリン抵抗性も改善できることがわかった。

既存研究によりGPR120の関与を推定

 ω-3不飽和脂肪酸が炎症誘導性マクロファージに作用し,その炎症誘導反応を抑制できることは以前から知られていたが,そのメカニズムについては未解明のままであった。今回,カリフォルニア大学サンディエゴ校のOlefsky氏率いるチームは,炎症誘導性マクロファージと脂肪細胞内では,G蛋白質共役受容体のGPR120が特異的に高発現していること,また長鎖脂肪酸がGPR120を介して細胞内カルシウム濃度を上昇させることなどから,ω-3不飽和脂肪酸の抗炎症作用もこのGPR120を介しているのではないかと予想。GPR120のアゴニストであるGW9508を陽性対照,GPR120のsiRNAによるノックダウンを陰性対照として,種々のアッセイ系を用い,確かにω-3不飽和脂肪酸がGPR120を介して抗炎症作用をもたらしていることを証明した。

 さらに同チームは,予想される経路上のさまざまなシグナル分子をsiRNAで順次ノックダウンすることで,GPR120の下流にシグナルが伝わるメカニズムを絞り込み,GPR120と結合したβ-アレスチン2がさらにTAB1と結合することで,炎症誘導シグナル経路上のTAK1がTAB1と結合できなくなり,炎症反応が誘導されなくなることを明らかにした。

抗炎症作用によりインスリン抵抗性が改善

 脂肪細胞から分泌される飽和脂肪酸は,肝臓や脂肪組織中のマクロファージに炎症反応を誘導し,その結果これらの組織がインスリン抵抗性を呈すようになるとされている。同チームは,ω-3不飽和脂肪酸によるGPR120経由の抗炎症作用を確認した後,これによってインスリン抵抗性が回復するかどうかを検討した。

 GPR120遺伝子のノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスをそれぞれ高カロリー食で飼育すると,両者とも肥満を呈し,インスリンの抵抗性も生じた。そこへω-3不飽和脂肪酸(マウス1匹1日当たり50mg DHAか100mg EPA相当)を与えると,KOマウスではなんの効果もなかったのに対し,WTマウスではインスリン抵抗性の改善が見られた。その効果は,インスリン抵抗性改善薬rosiglitazoneと同等かそれ以上であった。

 さらにWTマウスの骨髄をKOマウスのものと入れ替え,骨髄由来の細胞でのみGPR120を失ったマウスを作製して同じ実験を行ったところ,このマウスではインスリン抵抗性の改善が見られなかった。このことから同チームは「ω-3脂肪酸によるインスリン抵抗性の改善作用は,脂肪細胞上のGPR120ではなく,骨髄由来のマクロファージ上のGPR120を介したものである」と結論付けている。

秋刀魚の塩焼き25匹分が必要…「魚油による糖尿病治療は現実的でない」

 以上の結果はインスリン抵抗性改善薬の新たな標的を明らかにしたが,本論文の責任著者であるOlefsky氏は「ω-3不飽和脂肪酸の効果をもたらす経路はGPR120以外にもあるかもしれない」としている。体内でω-3不飽和脂肪酸が分解されて生じた短鎖の脂肪酸が,GPR120を介さずに抗炎症作用を生ずるという実験結果もあるからだ。また同氏は,用量の問題として,体重50kgの人が本実験と同等の効果を得ようとするなら,少なくとも1日当たり50gのDHA(秋刀魚の塩焼き25匹分に相当)を摂取する必要があるという点も指摘し,「いずれにせよ,糖尿病を魚油でなおそうとは思わないほうが賢明だ」とコメントしている。

(サイエンスライター・神無 久)


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