[2011年3月3日(VOL.44 NO.9) p.42]

定年退職後,疲労やうつ症状が改善

フランスの長期前向きコホート研究で明らかに

〔ロンドン〕フランスで行われた大規模コホート研究の結果,定年退職を機に,心身の疲労やうつ症状が緩和される可能性が示された。一方で,呼吸器疾患,糖尿病,心疾患などの慢性疾患の罹患には影響しないことも明らかとなった。筆頭研究者でストックホルム大学(スウェーデン・ストックホルム)心理学のHugo Westerlund准教授らは「生涯就労期間が長期化し,定年退職を迎える時期が遅くなっていることから,今回の知見は重要な示唆に富む」と述べている。詳細はBMJ(2010; 341: c6149)に発表された。

退職の前後7年を調査

 定年退職は人生の大きな転換点である。定年退職が健康に与える影響を考察したこれまでの研究では,退職が健康に対して良い効果をもたらすとするものもあれば,悪い影響を及ぼすとするものもあり,相反するさまざまな結果が得られている。

 今回の大規模観察研究では,1989~2007年にフランスで実施されたGAZEL研究の参加者のうち男性1万1,246例,女性2,858例を対象に,退職前後のそれぞれ7年間(計15年間)を追跡した。

 また,被験者には毎年,心身の健康状態に関するアンケートを実施した。Westerlund准教授らは今回の研究の強みとして,長期にわたって毎年調査を実施できた点を挙げている。

慢性疾患への影響は見られず

 被験者の多くが既婚者(89%)で,退職前に勤めていた会社での役職は中以上であった。法制に従って,72%が53~57歳で退職し,64歳までに全例が退職していた。

 退職の1年前に,4例に1例(25%)がうつ病の症状を報告し,728例(7%)が呼吸器疾患,糖尿病,心疾患,脳梗塞のいずれかあるいは複数の診断を受けていた。未婚で役職が下位の者では,身体的疲労を有する割合が多かった。

 解析の結果,定年退職1年前と比べ,1年後では心身の疲労を訴える者が大幅に減少していた〔オッズ比(OR):精神的疲労0.19,身体的疲労0.27〕。また,うつ症状でも同様の傾向が認められた(同0.60)。

 その一方で,退職と慢性疾患には相関は認められなかった。当初の予想通り,慢性疾患については加齢に伴い増加していた。

 Westerlund准教授らは「これらの知見に対する説明はさまざま考えられるが,もし労働そのものが高齢労働者の疲労の原因であったとすれば,単純に退職により原因が取り除かれたと考えられる」とした上で,「退職によって身体活動など健康増進を図る時間が取れるようになったことも一因として挙げられる」と考察している。

 さらに,「今回の知見により,早期退職や生産性低下には,疲労が関係していることが示唆された。就労者の高齢化が進む中,健康を保ちながら仕事を継続できるようにするには,仕事の在り方を見直すこと,あるいは健康増進に向けた介入策が必要となるだろう」と結論付けている。

結論を下すには時期尚早

 エラスムス医療センター(オランダ・ロッテルダム)のAlex Burdorf教授は,同誌の付随論評(2010; 341: c6089)で,今回の研究について「退職前後の数年間における健康指標を毎年追跡した点は評価に値する」と称賛している。

 また今回の知見については,これまでに発表されている結果とは矛盾することから,さらなる研究が必要だと指摘した上で「定年退職の時期を早めることがプラスの作用をもたらすのか,マイナスの影響を及ぼすのかについて結論を下すのは時期尚早である」と指摘。研究グループ同様「高齢労働者が健康を維持できるよう労働環境を整備し,改善する努力が必要である」と述べている。


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